数年前からカフェで編み物の会ができないかと考えていた。
しかし自分自身編み物の知識も経験も全くない。
ただ棒と手と糸を使って何やらごちゃごちゃと動かしているうちに形になっていくその不思議な光景を見ているのが好きで、編み物をしている人の佇まいが好きだった。
それにいつだったか忘れたが、NHKの「世界ふれあい街歩き」(旅人の目線で世界の街を歩く番組)でストックホルムの街が特集されていた回で、あるカフェで編み物会をやっている数名のグループが映っていたのを見た。
ほとんど女性だったが、中には男性も混じっていた。
コーヒーを飲みながら編み物をして、世間話をしている。
ただそこにいて編み物をしてるだけなのに、皆が手を動かしながら話しているそのゆるい雰囲気がとても素敵だった。
いつか自分の店でもそんな人たちが集まって、初心者も経験者も同じように楽しめる会ができれば面白いなと思っていた。
そんな時、いつも店に遊びに来てくれる染色家のオオニシカナコちゃんが森國さん(ふみぽん)を連れてきてくれたのだ。
彼女は「kcalして編み物をコミュニケーションツールに」をテーマに鑑賞者参加型の時間・場所・空間を共有する造形作品を制作して活動していると紹介してくれた。
kcalとは、“knit and crochet along”の略で「一緒に編み物しましょう!」という意味。
もちろん興味津々だった僕は、森國さんに世界ふれあい街歩きの話をした。
すると「ストックホルムのカフェで編み物会をやってた人が私に編み物を教えてくれた人です!」
鳥肌が立つような、そんな驚きだった。そんなことがあるのか!と。
(このところ「そんなことある!?」と思うような、いい意味で鳥肌系の出会いが多すぎて、最近は「はいはい、また来ましたね」と思うようになってきている。)
ストックホルムに留学経験がある彼女は、その方に編み物を教えてもらったことが今の活動に繋がるきっかけだったそうだ。
森國さんは自身の研究の為にも編み物会をする場所を探しており、EMMA COFFEEでkcal cafe clubをやりたいと言ってくれた。
イメージしているものがお互い全く同じだったので話も早い。
僕にとってはまさに渡りに船の話だった。
kcal cafe clubは月に2度程度、隔週の月曜日に開催することになった。
この日は朝からずっと雨でEMMA COFFEEのお客さんも少ない。
誰か来てくれるか心配だったが、開始時刻の15時になるとゾロゾロと人が集まり、たまたま店にいた人も参加してくれて全員で6名の会になった。
編みかけの靴下を持ってきてくれた人、子供のときにやってたけどもう何年も糸を触ってない人、全くの初心者の人。
いろんな人が一つのテーブルと糸の山を囲んで座った。
主催は森國さんだが、この会には所謂「講師」というような立場の人はいない。
kcal cafe clubはあくまで編み物を時間と空間を共有するツールとして用いているので、そういう人は必要ないのだ。
森國さんの持っている柔らかくて優しい雰囲気と気配りで、初めて顔を合わせる人が多いのに自然と会話が生まれて、初めから和やかだった。
上級者で靴下の仕上げを編む人もいれば、鎖編みの練習を黙々とする人もいるわけだが、参加者は皆フラットにコミュニケーションをとり、分からないところは教え合いながら会を楽しんでいた。
終始楽しげなムードで2時間半を過ごし、みなさんが帰っていくのを森國さんが見送る。
「雨だったので来てくれるか心配でしたが、結果めっちゃ楽しくて収穫のある会になりました」と嬉しそうに話してくれた。
会を横で見ていた僕も、頭で想像していた風景が目の前に展開されていることにとても満足だった。
みんなが糸を触っている風景が何ともいい雰囲気だからか、普通にカフェに来た人も興味津々で見ていたり、話しかける人もいた。
糸を触ったり、編み物をすることはストレスの緩和に効果があるなど、メンタルヘルスに良いという研究結果も実際にあるそうで、その効果が場の雰囲気を作っているのかもしれない。
ただ食事を消費する場所ではなく、そこから何かが生まれる場所こそコーヒーショップだと考えているので、このkcal cafe clubはまさにここで生まれた意味のあるものの一つだと思う。
EMMA COFFEEで人が繋がって今回のkcal cafe clubという森國さんの企画が実際に動き出し、そこに参加した人が何かを持ち帰っていく。
そんなことが今後数珠繋ぎのようになっていくのだろう。
この会が少しずつ成長していけば、かなり素敵なことになるはずだと確信している。
「かなり素敵なこと」って曖昧な表現だが、曖昧でしか言えない。
実際どうなっていくか分からないし、分からない方が面白い。
関わる人が素敵だから、そうなるに決まっているのだ。
シンプルなように見えてかなり深い、kcal cafe clubを企画した森國さんには感謝しかない。
少しでも興味のある方は是非参加してみてほしい。
・2022/10/31(月) 15:00~17:30
・2022/11/14(月) 15:00~17:30
・2022/11/28(月) 15:00~17:30
・2022/12/12(月) 15:00~17:30
・2022/12/26(月) 15:00~17:30
※参加費は無料ですが、EMMA COFFEEでワンオーダーをお願いいたします。
※日程の変更の可能性もありますので、EMMA COFFEE又は中西商店のInstagramをご確認ください。
森國文佳
京都芸術大学大学院在学中。
2019年、スウェーデン・ストックホルムに留学し編み物と出会う。
現在は「kcalして編み物をコミュニケーションツールに」をテーマに鑑賞者参加型の時間・場所・空間を共有する造形作品を制作して活動している。
大阪府豊能町生まれ 20代前半に「おもしろそう」という理由でトロントへ渡りコーヒーショップで働き始める。カナダでの生活、人や文化、ヘラジカが好きになり、カナダ人になることを本気で計画するも、家の事情で実家の豊能町へUターン。 2014年、家業である中西商店を引き継ぎ、店舗の一角でEMMA COFFEEを開業。 2021年、中西商店を全面的に改装。あらゆる人が自由に過ごすことができる「公園」を作ることを目標に中西商店をリニューアルし、多様なイベントやプロジェクトを企画。同時にEMMA COFFEEを自家焙煎化し、オリジナル商品の開発やコーヒー豆の卸にも力を入れている。
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