かなり前になりますが、僕の友達とこのエマコーヒーで二人が好きなミュージシャンを呼んでライブをしたいねという話をしていました。普段うちに来て下さるお客さん達にいつもとちょっと違う楽しみを届けられたら、という気持ちからでした。その友達はいろんなイベントをこれまで企画していて、毎年野外音楽イベントを企画していることからミュージシャンとの繋がりが多くもっていたんです。
「とりあえず一発目は曽我部恵一さん呼びたいね」という彼の言葉を聞いて笑ってしまいました。「曽我部さんとエマコーヒーは相性がいいと思うし・・・」と続ける彼に、そんなに簡単に呼べるような人なのかと聞くと、すぐその場で誰かに電話をかけ始めたのですが、その相手が曽我部恵一さん本人でした。暫く話して電話をきり、そして「曽我部さん、OKやって。」とのこと。耳を疑いましたが、拍子抜けしてしまうほどすぐに決まってしまい、そんな感じでこの企画がスタートすることになりました。
説明はいらないと思いますが、曽我部恵一さんといえばサニーデイ・サービスのボーカルで、ソロとしても活動されてる有名なミュージシャンです。僕ももちろん聴いていましたし、京都の磔磔にライブを見に行ったこともありました。そんな方が自分の店でライブをしてくれるなんてまだまだ信じられていなくて、アー写が届いてSNSで告知をしていても意外と実感が湧いてきませんでした。コロナ禍での開催という事で定員は20名に絞ることになったのですが、予想通りチケットは予約開始とともに完売しました。
ライブ当日、まだ店の営業中に曽我部さんが到着。ニコニコした笑顔で挨拶をしてくださったのですが、マネージャーさんもついておらず、本当に曽我部さん一人、長い髪を頭のてっぺんで縛って半袖半パン姿、アコースティックギター一本担いで現れた姿がかっこよすぎました。本物が目の前にいる緊張感とその人と普通に話してる自分を俯瞰で見てる自分もいて、なんかすごい事になったなとその時初めて実感が湧きました。
この日はライブの為16時半で店を閉め、その後会場設営とリハーサル。コロナ対策の為、入り口の扉や窓を開けていたせいで外を通りかかった人が曽我部さんの歌声を聞いて立ち止まっておられました。僕が外で準備をしていると「誰が歌ってんの?歌うまいね。カネ取れるなー。」と声をかけてくださった方がいて笑ってしまいました。
ライブは初期の頃の曲を中心とした前半と、最近の曲が中心の後半の二部構成で、全部で20曲歌って下さるボリュームのある内容でした。そして今回、曽我部さんに無理を言ってこちらか提案させて頂いたことがありました。それは、ラジオ放送を聴いているような感じで、歌う曲の製作秘話や思い出などを話しながら進めていくというものでした。
ライブのMCでもご本人が言っておられましたが、自分の曲についてインタビューなどでも話すことは殆どないようで、無理なお願いにもかかわらず快諾してくださる懐の深さは流石だなと思いました。集まって下さったお客さんは皆曽我部さんの大ファンばかりでしたので、限定20名で制作秘話を話しながらのライブという事で、終了後にはたくさんの方から興奮気味にうれしいお言葉を頂きました。
お客さんは大満足だったようなのですが、ライブ終了後に控室にしていた二階の部屋でお話をしていると曽我部さんが「お客さんてほんとに僕のこと知っているの?」と心配されていました。チケットは受付と同時に完売でしたし、お客さんとお話もしましたが、曽我部さんが青春だという方や遠方から電車とバスを乗り継いで来てくれた人もいたので、全員大ファンだったのですが、確かにみんな静かにライブを楽しんでいたので曽我部さんもそう思ったのかもしれません。
たぶん皆曽我部さんが好きすぎるのと、本人との距離が近くてそうなってしまったのかもしれないと思っています。みんな静かに激しく感動していたんだなと。僕もその一人でした。ライブ後に二階でコーヒー飲みながらお話をしたこと、お客さんが帰ってから地元のお寿司屋さんで注文しておいた僕のおすすめの磯巻きを食べながらみんなで小さな打ち上げをしたのもいい思い出です。
曽我部さんは一人で東京から車で来たそうで、この後は実家のある香川県へ行くとのこと。スタッフ皆で見送ってほっと一息。この日は感動しっぱなしで、自分たちにとっては夢の様な時間だったと、店を片付けながら思い返していました。早朝から深夜まで働いても、この日は全く疲れた感覚はなく、むしろいつまでも仲間とこの日のライブについて語り合っていたいような、そんな気持ちでした。
曽我部恵一
そかべ・けいいち
1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。
90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。
1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。70年代の日本のフォーク/ロックを'90年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。
2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロデビュー。
2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIYを基軸とした活動を開始する。
以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。
http://www.sokabekeiichi.com
大阪府豊能町生まれ 20代前半に「おもしろそう」という理由でトロントへ渡りコーヒーショップで働き始める。カナダでの生活、人や文化、ヘラジカが好きになり、カナダ人になることを本気で計画するも、家の事情で実家の豊能町へUターン。 2014年、家業である中西商店を引き継ぎ、店舗の一角でEMMA COFFEEを開業。 2021年、中西商店を全面的に改装。あらゆる人が自由に過ごすことができる「公園」を作ることを目標に中西商店をリニューアルし、多様なイベントやプロジェクトを企画。同時にEMMA COFFEEを自家焙煎化し、オリジナル商品の開発やコーヒー豆の卸にも力を入れている。
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