中西商店として初めてとなる事前予約を取って参加して頂く本格的なイベントでした。
店舗を持たないカレーユニット咖喱山水と、ギタリスト山内弘太のライブ。カレーとギター?いったいどんなステージになるのか、全く想像がつかないですよね。そこはかとなく感じるアングラ感とブラックボックスの様な雰囲気。このお話を知人から頂いた時に即答でオファーを決めました。正直お客さんが集まるのか、そして楽しんでくれるのかちょっと不安ではありましたが、僕自身が強烈に惹かれたという事だけで開催する理由は十分満たしていました。
当日は少し早めの16時に店を閉めて会場の準備。その間演者の方々はサウンドチェック。いろんな音色をどんどん重ねていく山内さんのギターと咖喱山水さんが鍋に敷いた油がはじける音が重なり、なんとも不思議な音色が鳴り響いていました。換気のために窓を開けていたので、隣の派出所の警官が不思議そうにこちらをのぞいていました。「なんの音ですか?」と尋ねられ一瞬答えに困り、「ギターと油の音です」と答えておきましたが、警官はやはり不思議そうな顔のままでした。
心配していた雨も降らず、予定していた数のお客様も集まって下さり開演前からとてもいい雰囲気に包まれる会場。店の外の受付に人が並んでいる光景がライブハウスみたいで新鮮でした。コロナ対策でマスクの着用、手指の消毒、検温、皆さんちゃんとルールを守って下さりとてもありがたい。
どんなステージになるのか、独特な緊張感のままライブが始まりました。鍋の中にどんどん材料を入れながら手際よく調理を進めていく咖喱山水さん。ひとつひとつの所作が洗練されているので料理をしている姿だけでもじっと見ていられる。山内弘太さんの繊細で時に激しい音響的なギターの音とスパイスをすり潰す音や木べらで鍋の縁をたたく音、それに次々と変化するスパイスの香りも相まって今まで経験したことないような不思議な世界観が繰り広げられる。
「空間全体が鍋で、その中にお客さんを巻き込んでスパイスと一緒に煮込んでいくようなイメージ」と咖喱山水さんが言う通り、会場全体が二人の世界に引き込まれていくようでした。
山内さんは椅子に座り裸足でギターを弾いているのですが、注意深く見ていると足の指でエフェクターのつまみを器用に操り、微妙な調整で多種多様な音のバリエーションを重ねていきます。僕自身音響系のミュージシャン/バンドを好んでよく聴いているので釘付けでした。
調理と音のステージは1時間弱でしたがあっという間に過ぎていきました。
カレーが出来上がると、先ほどまであった緊張感がすっとほぐれて美味しそうなカレーの香りと期待感で皆の顔が緩む。「お腹のすいている人からカレー取りに来て下さい!」と咖喱山水さんが皆の笑いを誘い、お客様はお皿を持って鍋の前に並んで順番にカレーを盛り付けてもらう、ちょうど炊き出しの様な形で配膳が始まる。演者と対面でコミュニケーションが取りながら調理した鍋や道具なども見られて、自然と会話が弾み会場全体の一体感が生まれた瞬間でした。個人的には今回のイベントの中で特によかったシーンでした。
言うまでもありませんがカレーの味は格別。
皿洗いをしていた時に気づいたのですが、誰一人として米粒一つ残さず食べていたのも印象的でした。
中西商店での初のイベントはカレーの調理に合わせてギターの即興演奏をするという尖った企画。来て下さったお客様は「ここでやってなければ内容もよくわからないし、ハードルが高くては入れない」と言ってくださった方がいました。確かに言葉で説明しても理解されにくいイベントではありますが、今回その「よくわからない」に踏み込む事でしか得られない感動やインスピレーションを得られた方も少なくなかったのではないかと思います。
とても刺激的で楽しい思い出になりました。
咖喱山水 / Curry Sansui
音のある場所に現れる神出鬼没のカレーユニット。スパイスの持つエネルギーを最大限に活かす事を念頭に、内側から攻めるカレーを志向。カレーから発する聴こえない音/リズムを届ける。音響派カレー。
https://currysansui.wixsite.com/index
山内弘太
1986年生まれ。京都在住。ギタリスト。歌もの、即興、映像、ダンスとの共演など国内外問わず様々な形態、環境で活動する。ソロの演奏ではギターから出るあらゆる音をその場で加工し積み重ね配置して音像を作り上げる。折坂悠太(重奏)、quaeruのメンバーとしても活動。
https://kotayamauchi.tumblr.com/
大阪府豊能町生まれ 20代前半に「おもしろそう」という理由でトロントへ渡りコーヒーショップで働き始める。カナダでの生活、人や文化、ヘラジカが好きになり、カナダ人になることを本気で計画するも、家の事情で実家の豊能町へUターン。 2014年、家業である中西商店を引き継ぎ、店舗の一角でEMMA COFFEEを開業。 2021年、中西商店を全面的に改装。あらゆる人が自由に過ごすことができる「公園」を作ることを目標に中西商店をリニューアルし、多様なイベントやプロジェクトを企画。同時にEMMA COFFEEを自家焙煎化し、オリジナル商品の開発やコーヒー豆の卸にも力を入れている。
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